中耳炎の治療・手術

鼓膜形成術

鼓膜形成術

慢性中耳炎や外傷性鼓膜裂傷などで鼓膜に穿孔がある場合、形成材料を残った鼓膜につけて鼓膜の穿孔をふさぎ、新しい鼓膜を再生させる鼓膜形成術という手術を行います。形成材料を固定するため、パッキングといって術後1週間は耳の中にガーゼを入れておかなければならず、通常2週間ほど入院が必要です。

また、この手術は残存鼓膜のどこに形成材料をつけるかで、3通りの方法に分かれています。残存鼓膜の内側からつけるアンダーレイ法、外側からつけるオーバーレイ法、そしてインレイ法があり、サンドイッチ法とも呼ばれるインレイ法では3層から成る鼓膜のうち、表皮層と固有層の間に形成材料を挟みこむ方法です。

鼓室形成術

慢性中耳炎や真珠腫性中耳炎などで鼓室や乳突蜂巣に病変がある場合や、耳小骨に異常がある場合に行われる鼓室形成術は、耳小骨の連鎖形態によって分類されており、ここでは一般的に多く用いられる型をご紹介します。鼓膜に穿孔があるときは鼓膜の再建も行えます。

また、術後の聴力改善度は、一般的にⅠ型>Ⅲ型>Ⅳ型という順で小さくなる傾向があります。

鼓室形成術Ⅰ型

耳小骨連鎖には処置を加えず、鼓膜の振動は通常通りツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨の順に伝わって、内耳へと伝達されます。可動性低下や離断といった問題が耳小骨にない場合、鼓室や乳突蜂巣内の病巣の除去するために多く適応されます。

鼓室形成術Ⅲ型

離脱や破壊、可動性低下といった異常が生じているツチ骨やキヌタ骨を摘出した後、正常なアブミ骨と鼓膜を直接接着します。鼓膜とアブミ骨の間に摘出した耳小骨や外耳孔周囲の軟骨などの自家組織や、セラミックやチタンなどの人工素材を材料に使用した、コルメラという振動を伝えるものを留置することが多くあります。

コルメラの留置は一般的に鼓膜とアブミ骨の間にある程度の距離があるためで、鼓膜の振動はコルメラを介してアブミ骨に伝わります。

鼓室形成術Ⅳ型

底板と上部構造から成るアブミ骨ですが、上部構造が破壊され、底板のみが残っている場合は上部構造の部分にコルメラを留置し、鼓膜と接着します。鼓膜からの振動はコルメラを経由し、アブミ骨底板へ伝達させる手術です。

鼓膜切開術

中耳炎の治癒は中耳の換気がポイントです。本来は中耳の換気が耳管によって行われますが、中耳炎の状態ではその機能がうまくはたらかなくなります。急性中耳炎や滲出性中耳炎、酸球性中耳炎において、鼓室の貯留液の排出や換気のために行われる手術が、鼓膜切開術や鼓膜換気チューブ留置術です。

鼓膜切開を行うと中耳の膿が減ると同時に、切開した穴から十分な中耳の換気が行われます。切開した穴は中耳炎が治るとともに閉じ、一般的に数日~1週間ほどで元通りになります。しかし、乳幼児や低年齢のお子さんの場合、穴が閉じたことで再び中耳炎が悪化・再発してしまうケースも多くあり、そのような場合は鼓膜に換気チューブを留置する形で治療を進めます。

鼓膜チューブ留置

鼓膜換気チューブ挿入術は鼓膜切開後、数㎜ほどのチューブを穴に差し込む方法で、中耳の換気がチューブの穴からうまく行えるようになり、術後は中耳炎が完治した状態が維持され、中耳炎の治癒に効果的です。

鼓膜換気チューブ挿入術はさほど難しい手術ではなく、局所麻酔を使い外来で行えるのも利点ですが、恐怖感の強いお子さんなどの場合は全身麻酔をかけ、安全のため一泊二日ほど入院するケースもあります。チューブを留置すると、中耳炎で中耳に滲出液などが溜まっている状態に比べ、よりクリアに聞こえるようになり、身体の発育に伴って耳管の機能も良好になっていきます。

注意点としては、チューブ留置中は耳に水が入らないように気をつけて生活します。耳に水が入りやすい水泳やシャンプーの際などは耳栓をするようにして、深く潜水するのは控えましょう。チューブは手術から約1年経ったタイミングで外しますが、開いた穴はその後自然と閉じます。穴が閉じなかった場合も簡単な手術で閉じることができます。

アブミ骨手術

耳小骨のひとつであるアブミ骨の振動が悪化している場合、アブミ骨を摘出して軟骨で耳小骨の連鎖を再形成したり、内耳と接触しているアブミ骨の底板に孔をあけて人工耳小骨を挿入したりします。

通常、耳小骨は周囲の骨から独立した状態で動くことにより、音を効率よく伝えていますが、難聴の原因である耳硬化症ではアブミ骨底板の周囲に海綿様骨変化(病的な骨)が生じ、これがアブミ骨底板まで達すると、アブミ骨自体の動きの支障となり、鼓膜からの振動が内耳に伝わりにくくなる伝音難聴を発症します。鼓膜には異常がないので、思春期以降に進行する伝音難聴は内耳障害による感音難聴と混同されることもあります。